意思決定支援~ACPとは その2

ACPのもうひとつの側面を事前指示書(リビングウイル)からの流れでみてみよう。将来自分が認知症になったり意識障害になったりして意思表示ができなくなった場合どうしたらよいのか。自分が希望しない延命治療が行われたりしないだろうか。自分が判断できなくなった時のために、自分が受けたい医療、受けなくない医療をあらかじめ意思表示しておくのが事前指示(アドバンスディレクティブ)であり、これを書面に残したものが事前指示書(リビングウイル)である。

しかし、事前指示書が医療の現場に提出されてもその取り扱いに悩むことがしばしばある。この人はどこまで理解してこれを記入したのだろうか、はたして現在の状況を想定して書いたのだろうか、現在まで考えは変わっていないのだろうか、現時点で最善と考えられる方法と記載内容が異なる場合はどう対処したらよいのか、記載内容と家族の意向が違う時はどうするのか。そもそも事前指示書があっても、その存在をまわりの人が知らないこともある。

実は、事前指示書の意義については、本家の米国でも否定的な研究結果が出されている。「事前指示の有無と、患者の意向が尊重されたかどうかに関連が認められなかった。」(Danis M et al. N Engl J Med 1991)や「事前指示を聴取していても、終末期患者の希望を医療の内容に反映できなかった。」(Covinsky KE et al. J Am Geriatr Soc 2000)などが代表的な研究だ。やはり、手引き書を見ながら自分で記載するという方法には限界があるし、そのような指示内容はおかれた状況によって容易に変化するというのがその原因だろう。

このような背景から生まれてきたのがACP(アドバンスケアプラニング)である。ACPを僕なりに定義すると、「本人、家族、医療・ケア関係者が一体となってその人や家族の価値観や人生観を尊重しながら、受けたい医療や最期の時期の過ごし方について話し合い、その人の生き方を共有するプロセス」となる。家族やかかりつけの医師、看護師、保健師や介護保険を使っている人はケアマネジャーなどとあらかじめどのような医療を受けたいか話し合っておく、これは指示書という書類を作成すること自体が目的ではなく、周囲の人と話をしておくことが大事だという考えである。このような過程で、自分は今までどのようなことを大事にして生きてきたのか自分自身のことを知ることもできるし、周囲の人もその人の生き方や価値観を理解することができる。家族やまわりの人が自分のことをよく理解してくれていたらいざという時に慌てなくてもすむというわけだ。

これまで、ACPを2つの流れからみてきた。それでは、次稿でACPをいかに臨床の現場で活用していくか考えてみよう。