意志決定支援~ACPとは その1

医療や介護関係者の方は、最近講演会とか研修会などいたるところで意志決定支援あるいはACP(advance care planning)という言葉を耳にしていることと思う。ACPは、患者さんや家族に医療や生活情報を伝えて、それをもとに本人にとってベストな選択ができるようにいかにサポートしていくかという方法のひとつである。実は、ACPは僕たちがやっている在宅医療の核となる手法でもある。

ACPが出てきた背景は2つの流れから考えるとわかりやすい。まず第一の側面は、医師・患者関係である。古代ギリシャからつい最近までパターナリズム(父権主義)という関係が医療の主流であった。これは、医師は患者の「お父さん」であり、「お父さん」の指導にしたがって療養したら間違いありませんよという考え方である。しかし、戦後米国を中心に自分のことは自分で決めたいという考え方が強くなり、ここで登場したのがインフォームド・コンセント(説明と同意)という方法だ。医師が医療情報を提供、説明し、患者はそれを理解した上で決定、同意するという方法で、患者が主体的に決定するということを目的としている。しかし、これもやり方によっては、たとえばAという選択肢とBという選択肢があります、A、Bにはそれぞれこのような長所と短所があります、さあA、Bどちらにしますかと医師から尋ねられて、いや素人には決められない、判断を委ねられても困ります、みたいな話になりかねず、親切なようで実は不親切な面も持ち合わせている。そこで、提唱されたのがshared decision making(共同意志決定)という方法である。これは、医師は説明、情報提供を行うだけでなく、患者の意志決定に主体的に関わっていこうという考え方で、医師・看護師と患者・家族がエビデンスに基づいた医学情報を共有しつつ、患者・家族の価値観や人生観を尊重して共同で意志決定を行っていこうということである。shared decision makingとACPはこの場合ほぼ同義と考えてもらったらよい。

ACPにしてもshared decision makingにしても横文字でわかりにくい。なんだ、欧米で提唱された考えの受け売りじゃないかと思われるかもしれない。でもそれは正しくない。日本では昔から調子の悪い患者さんの家を医師が訪問する往診が行われてきた。いったん家に足を踏み入れたら、そこは患者さんや家族の世界だ。その家固有の家族関係があり、価値観や人生観があり、独自の家風がある。医師や看護師などの医療者が外から客観的に観察して指導するだけでは在宅医療は成り立たず、医療者が家の中に入り込んで患者・家族と人生観や死生観を共有しながら共同で意志決定していくという方法がとられてきた。これはACPそのものである。つまり、そのような難しい名前はついていなかったが、日本の在宅医療の現場では昔から普通に行われていた方法であり、この手法が再評価されているといった方が妥当だろう。

ACPの2つめの側面については次稿で述べる。

意志決定支援~ACPとは その1」への1件のフィードバック

  1. 素晴らしいですね。私も医師ですが家族を含めた患者さんの全てを理解するのは大変難しい作業ですよね。是非頑張って頂きたいです。京都にもこんなクリニックがあって良かったと思います。

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