今までACPを2つの側面からみてきたが、病院ではいろいろな場面が想定される。たとえば、がんと診断された時、再発が見つかった時、治療の継続が難しくなった時、それぞれ丁寧なACPが必要とされる場面である。高齢者で嚥下機能が悪くなって肺炎を繰り返す時、いよいよ十分な栄養や水分が摂れなくなった時、このような時もACPが重要だ。
僕たち在宅療養チームがACPに関わるのは、退院前カンファレンス、サービス担当者会議、日常診療の3つの場面である。退院前カンファレンスについては「退院前の心づもり」の稿でも書いたが、本人、家族、病院担当者、在宅療養チームが一堂に会し、その方の身体情報(どのような病状で、どのような治療を受け、今後どのようなことがおこりうるか)、生活情報(退院後どのような生活になるのか、また介護者である家族の生活はどのようになるのか)、生き方(どんなことを大切にされてきた方で、これからどんな生き方をしたいと考えているのか)を皆で共有し、そのような生活や生き方を支えるための支援策について話し合う場である。
退院して家に帰ると、今度は節目ごとにサービス担当者会議が開かれる。病状が変化した時、療養環境や家族の状況が変わった時などにケアマネジャーが召集して担当者が集まって話し合いの場をもつ。退院前カンファレンスと同じで、皆で身体情報、生活情報、生き方について共有し支援策について話し合い、その結果に基づいて新しい支援プランが導入される。そして、その後も変化があればまた話し合いの場をもつ。このようなサイクルがぐるぐる回って在宅療養は維持されるのである。
そして、これはあらゆる医療介護担当者について言えることであるが、普段の訪問やその中での日常会話がすべてACPの実践となっている。何気ない会話やことばの端々、表情の変化などから、その方や家族の価値観、人生観をくみ取っていけるようになりたいといつも思っている。